この夏最後のスイカ
お隣りのTさんからスイカを頂いた。
(Tさんという名をこの時初めて知った。
ここに越して来たもうすぐ5年になるのだが・・・)
Tさんはいつも笑顔の絶えない気さくなおばさんで
僕が帰宅したのを確認したらしく、ほろ酔い加減で僕の部屋にやって来た。
「スイカ食べる?」
「ええ、喜んで頂きます!」
スイカは大好物だからね。
どうやら大きいスイカをいくつかもらって
食べ切れなくて困っていたらしい。
Tさんはダンナさんとふたり暮らし。
1個もあればじゅうぶんだろう。
「ええっと、丸ごと持って来ても・・・。」
と言ってから、僕の部屋の奥を覗き込むそぶりを見せてあわててやめた。
「あ、あの、ひとり?」
「ええ、そうですよ。」
そうして持って来てくれたのが写真のスイカ。
ちょうどひとりが食後に食べるにはいい薄さに切って
そのまま皿にも載せず手で持って来てくれた。
丸ごと1個引き受けても全然OKだったんだけど・・・。
「すごく甘いのよお。」
スイカの汁で濡れた手を舐めながらTさんは言った。
「友達か誰かいるのかと思って・・・ホホホ。」
Tさんは、自ら妙な勘ぐりをしたことを素直に告白しながら隣に帰って行った。
テレビでは天気予報が、関東地方はすでに秋の気配に包まれていると告げていた。
おそらく、この夏最後のスイカとなるであろうそれを、僕は晩飯の後に食べた。
冷蔵庫に入り切らず、食事の間部屋に出しっぱなしだったので
温くなっていたのは残念だったが、水気をたっぷりと含んで美味しかった。
だがTさんがいうほど甘くはなかった。
遊び足りない夏休みの終わりみたいな、ちょっと切ない味がした。