嘉手林昌『失われた海への挽歌』

先日の登川誠仁先生のCDとともに注文したのが
嘉手苅林昌さんのCD『失われた海への挽歌』。
「失われた海」という感覚が内地の、海と接することなく
新興住宅地でノホホンと育った自分のような人間には
ホントのところ理解できていないんではないだろうか。
なんてことをタイトルを眺めて思いながら聴き始めると
打ち寄せる波の音に続いて始まるオープニングは八重山民謡『鷲ぬ鳥節』。
(正しく発音すると「ばすぃぬとぅるぃ」と表記すればいいのだろうか)
この、八重山の座開き(祝いの席のオープニング)の曲を
林昌さんは「海への挽歌」のオープニングで飄々と唄う。
八重山の人が聴いたら「発音」が違ったりするんだろうけど
そんなことはお構いなし、林昌節の「鷲ぬ鳥」なんである。


部屋を暗くしてじっくりと聴いていると
ときおり入る波の音とあいまって林昌ワールドの味わい深さが際立ってくる。
音源は昭和50年の録音。
当然現在の沖縄ブーム、島唄ブームなど
想像すらできないような時代の音である。
それだけに、現在大量に生産され、消費され、
ある面疲弊しつつあるようにも見える
現在の沖縄音楽の状況からは遠く隔たった
いつくしむような声が、音がそこにある。

竹中労氏プロデュースなので(かどうかわからないけど)
例によって歌詞カードが完全ではないのが残念だが
そういうことは置いておいて、
目を閉じてじっくりと耳を傾けるべきアルバムであった。


コザンチュの友人が、東京に住んでいた頃
故郷が懐かしくて「林昌さんのアルバムをよく聴いては
沖縄の海に思いを馳せていた」と語っていたが、
それはこのアルバムなんではないかと勝手に想像した。
「民謡なんかわからないんだけど、あれはよく聴いたさ。」
と彼女は言っていた。

失われた海への挽歌

失われた海への挽歌