職人の道具

hacchaki2006-06-11

美容室に行った。
根が無精者なので2〜3ヶ月に1回しか行かないんだけど。
さすがに伸びて来てしまったのでさっぱりすることに。
センター南駅から徒歩数分の、いつも行く美容室のマスターは
松任谷正隆の線を細くしたようなヤサオトコで
ひそかに“カリスマ美容師”と呼ぶスバらしい腕を持つ。
いままでいろんな床屋・美容室に足を運んだが
手さばきとハサミひと振りで
表情を変える髪に感動したという経験は
この店が始めてであった。
それまでショートにしたことがなかったワシの髪を
いとも簡単に「短くしちゃいましょ」とバッサリやって以来
すっかりショート派に転向したのである。
ワタクシを観て「大したことないジャン」と思ったら
それは素材が悪いのだ。そう思えばいいじゃん!


彼とヨタ話しながらそのハサミさばきに見とれていると


「へへ、ハサミ変えたんですよ。5年振りかな。」
「へえ、やっぱり違いますか?」
「ええ、僕ちょっと手にクセがあるんで合うのがなかったんだけど
ハサミ屋が作ってくれるっていうんで。なかなか最近は作ってくれないんですよ。」


ほほう、そうなのか。ハサミひとつにも、そういう奥深い世界があったのか。
みんな既製品を適当に選んでいるのかと思ったらそうではないのであった。


「やっぱり違うもんですか?」
「違いますねえ。やっぱり合わないと疲れます。
今回はちょっと重いのにしたんだけど。」


ホントに微妙な違いなんだろうけど
手の一部となってお客さんの髪を切るわけで
それが一日中、そして毎日続くのだから
微妙な違いが大きく影響するのであろう。
重くすると言っても10〜20グラムぐらいなんだそうだが
それくらいプロとして髪を切るというのは
デリケートな作業なんだろう。
「ほら。」
と言って見せてくれたマスターの指先は
皮が切れて剥けてササクレ立っていた。
「今までのハサミのクセで刃に指が当たると
今度のは切れ過ぎるからこうなっちゃうんですよ。
まあ、慣れるまでの辛抱なんですけど。」
ちなみに西洋のハサミは「板と板」で文字どおり挟んで切る。
だから1枚刃で切れることはないんだそうだ。
日本のハサミはそれぞれの刃が独立した刀と同じで
一枚刃でスーッと動かすだけでちゃんと削ぎ切れる。
それだけ刃に対する考え方も違うのだそうだ。
だから研ぎに出すのは2〜3回が限度で
微妙な噛み合わせで成り立っているために
あんまり深く研ぐことができない。
研ぎに出してもほとんど研いだ痕跡が判らないくらい
デリケートなんだそうだ。
ハサミの値段は、だいたい7〜20万円くらい。
ハサミに20万円!って思うけど職人が扱う道具だと思えば
それも納得のいく話。いったい、どんな切れ味なんだろう?


普段ボンヤリと切られているハサミにも
こんなに奥深い話があったとは。
なんか髪を切りに言って得した気分になっちゃいましたよ。
自分が普段イラストを描く時はゼブラのスクールペンと決めているが
ペン軸なんてテキトーに買ったやつだし
インクもドクターマーチンだったり開明のレタリングソルだったり
全然こだわりとかないもんなあ。
「特注で堺の刀鍛冶にペン先をオーダー」とかしてみたい。
そんなのあるのか?
まあ、描くイラストはどーせ変わらないんだろうけど・・・。

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