ちょっと怪談…?第1夜

夏なんで怪談…。
といえるかどうか判らないけど
自分が昔実際に遭遇した不思議な体験を
備忘録として書いておこうと。
いくつかあるんですよ、今考えても不思議な話が。
でもそれほど怖い話ってわけでもないので
あんまり期待しないでね♪
あくまで不思議な話…。


<第1話>『え〜ん、え〜ん、え〜んと…』


大学2年の頃音楽サークルで知り合ったメンバーとバンドを組んでいた。
バンド名は恥ずかしいから言いません(笑)。
ボーカルの女の個性を尊重して戸川純のコピーとかやっていた。
自分のパートはキーボード。あとギター・ベース・ドラムの5人編成。
池袋にあるスタジオ『P』でよく深夜練習をしていた。
(深夜は料金が安いから)
ギターのFの家が阿佐ヶ谷にあって、そこに集まって時間を潰し
深夜0時を回った頃自分が親から借りたクルマを走らせて
池袋に向かう、というのがよくある練習パターンだった。


その日は梅雨の雨間の蒸し暑い夜だった。
クルマの窓を全開にしながらその日に練習する曲を聴いていた。
運転=自分、助手席=ボーカル女、後ろ=残りのメンバー。
クルマは深夜の空いた早稲田通りを走って池袋に向かっていた。
後ろの3人は早々に寝てしまい、ボーカル女と自分は
「この曲どうやってやる〜?」みたいな話をダラダラとしていた。
クルマは中野警察署の前の信号で停まった。
横断歩道は酔っ払いのおじさんがひとり、フラフラと渡っているだけだった。
対向車線も後ろにもクルマはなかった。


ふとふたりの会話が途切れたとき、テープはその曲のサビにさしかかった。
アレンジ上大事なところだったので
ふたりとも無意識に聞き耳を立てようと思ったのかも知れない。
そのとき、サビと一緒に誰かが口ずさんだ…ように聴こえた。
いや、確実に誰かが1フレーズ、テープに合わせて歌った。
「気のせいか?いや、ボーカル女が歌ったのか?」
そう思い助手席のほうを見た。
すると彼女もポカーンと口を開けて自分を見ていた。
「今の、聞いた…?」
彼女が聞いてきた。
「お前じゃないの…?」
「違うよ。違う、絶対違う。」
あわてて後ろを振り向くと
残りのメンバーは相変わらずお互いに寄りかかって眠っていた。
「後ろからじゃないよね。」
「うん、違う。」
それはスピーカーから出た音とも違う、
助手席と運転席の間にまるで誰かがいるかのような
すごく自然な聞こえ方だった。


信号が変わってクルマを走らせたが
自分はテープを巻き戻してサビの箇所を聞いてみた。
でもふたりが聞いた声は二度と聞こえなかった。
でも確かに聞いた。ふたりとも。同じ声を聞いたのだ。
ちなみにその声はとても苦しげな、絞り出すような声だった。


その時聴いていた曲は戸川純の『眼球奇譚』(タイトルからしてスゴイ…)。
サビの部分の歌詞はこうだ。


  えーん、えーん、えーんと
  泣きすぎて枯れ果てた
  目から なお流れる
  赤いなみだ


ふたりに聴こえたのは「えーん、えーん、えーん」という部分。
確かに深夜に聴くには向かない曲ではあったが…。
本当に苦しげな、しぼるような声だった。
あれは一生忘れることのできない声だと思う。


ちなみに中野警察署は昔、中野陸軍学校があったところで
昔からさまざまな噂話の多い所です。
いろんな条件が重なったんだろうか・・・。

玉姫様(紙ジャケット仕様)

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