オアシス

hacchaki2017-01-31

昨日は長兄とヨメはんと一緒に
父が最期の数ヶ月、行くのを楽しみしていた
茶店を訪ねてみた。
実家のマンションから徒歩2分。
同じ通りの並びにある昔ながらの小さな喫茶店
スターバックスなんかとは対極にあるようなヤツ。
そこに晩年両膝に故障を抱えていた父は
おそらく10分以上かけて歩いて
コーヒーを飲みに行っていた。


そのお店に行くきっかけをママさんから伺った。
店は通りに面していて
その通りを歩く人の姿が窓越しに見えるのだが
店の前を歩く買い物帰りの父の姿が
あまりにもおぼつかなくて
ママさんが思わず声をかけて手を引いて
マンションまで付き添ってくれたのだそうだ。
おそらく普通の人ならわずか1〜2秒で通り過ぎてしまう
店の前を父はスローモーションのように
何分もかけて歩いていたのであろう。
それから週に1〜2回その喫茶店に立ち寄っては
1〜2時間穏やかな時間を過ごしていたらしい。


正直、病てんこ盛りで鬱々としがちな母と
自宅のキッチンでテーブル挟んで飲むコーヒーは
インスタントであったことを差し引いても
けっして美味しいものではなかったであろう。
父と同年代の三姉妹が営む小さな古い喫茶店
昔美童(んかしみやらび)のママさんたちが
キャッキャと会話が弾む様子を眺めながら
過ごすひとときは父にとっては
つかの間のオアシスであったのだな。

我々が、たまに立ち寄っていた老人の家族であり
その老人が先週亡くなったことを告げると
ママさんたちはたいそう驚き、悲しんでくれた。
そして、ここ数年、とくに1年前に
岡野町(僕の自宅から徒歩5分)に引っ越してからは
ほとんど見せることのなかった笑顔で
家族のことや自分の昔の話をする父の様子を
語ってくれた。


晩年(晩年だけじゃないけど)ピンと外れな言動が多く
僕を含めた家族からキツく当たられることが
多かった父にとってそのよう憩いの場所があったのは
少しばかりの救いのような気がした。


亡くなる二日前、
病院に連れて行こうとしたら


「しんどいから家で寝ている」


と拒んだ父はその日の午後


「気分がよくなった」


と言ってその喫茶店に行こうとしたが
思うように歩けず断念したそうだ。
それほどまでにそのオアシスに行きたかったのだな。
行かせてあげたかったけどね。
でも、親父よ、やっぱり喫茶店より病院が先だったと思うよ。
そういうところがピンと外れだっつーの。


もう言ってもしょうがないことだけどね。