おふくろの味人生の最後に、あなたは何を食べますか?

hacchaki2005-09-16


以前、TV『ニュースステーション』で“最期の晩餐”という企画をやっていた。
某コンテンツでこの質問を投げかけたところ
ってか自分が投げかけたわけじゃないけど
多かったのが「母親の手料理」。
まあ、そうね。
「マックのバリューセット」とか言われたらちょっと引く。
だって「ポテトはいらない派」なので。
自分もこの質問にはいつも「母親の作るけつねうろん」と答えている。
あ、「きつねうどん」。
関西風のすっきりと透き通ってかつおダシの香りがふわーッと漂ううどん。
うすめに甘辛く煮た油揚げが2枚ほど乗っかってネギをぱらぱら〜。
ああ、故郷のお母さん、長生きして下さい。
同じ市内に住んでるけど。


なんてこと考えてたらこの映画を観たくなった。

異人たちとの夏 [DVD]

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大学時代にひとりで観てメッチャ泣いた。
妻と離婚し仕事にも疲れている中年のTVプロデューサーが
ふと立ち寄った生まれ故郷の浅草で
自分が子供の頃に死んだはずの両親と出会う。
両親はおどろおどろしく幽霊ちっくに登場するでもなく
「よう、ひさしぶりだな」
と言った感じにナチュラルに出現するので
主人公も最初は半信半疑だったが
だんだんと両親の元に通うようになる。
両親が住んでいるのは浅草の一角にひっそりとたたずむアパート。
古きよき東京の下町がそこにだけぽつんとある。
ランニングシャツ、ステテコ、団扇、蚊取り線香
そこは死者の世界になっているのだろう。
そこで両親は生前と同じように暮らしている。
だがこのまま両親との逢瀬を続けられるはずもなく。
死者と交わることは生きている者を消耗させる。
主人公の身体はどんどん衰弱していき
生き続けるためには両親と別れなければならない。
そう、2度目のお別れをしなければならないのだ。


そして息子は両親を連れて浅草のすき焼き屋『今半』に出掛ける。
「お母さんの手料理を食べよう」という父親に
息子は「今日は僕がごちそうしたいんだ」と言う。
家族3人での最後の食事が始まる・・・。
ここからがホントに泣けます。


先は是非見て欲しいんだけど。
本当にいいシーンが待っているから。
まあ、最後に大林監督らしい蛇足シーンもあるんだけど…。


なにより父親役の片岡鶴太郎と母親役の秋吉久美子
このふたりがいい。
今や自分より年下である母親を実にかわいらしく演じている。
主人公のとまどいがそのまま自分のものになる。
鶴太郎のオヤジっぷりも粋でいいんだよねえ。


この映画の中にはいい台詞がいっぱいある。
立派になった息子を感慨深く見る両親に
息子が「僕はお父さんやお母さんが思っているような
立派な大人になんかならなかった」と言う。
すると自分より若い父親が言う。
「自分のことをそんな風に言うんじゃねえ。
自分で自分を誉めねえで、誰が誉めるってんだ?」
息子を正面に見据えて諭すように。
母親が続ける。
「お前を、誇りに思っているよ。」
なんて優しい台詞なんだろう。
山田太一による原作本は映画よりも
もう少し淡々と描かれていたような記憶があるが
大林宣彦監督は情緒たっぷりに親子の情、感謝する気持ちを描く。
人が人を思う気持ちは生死に関係ない。
向こう岸に渡った人はいつも
こちら側に暮らす人を見守ってくれているのだ。
この映画を観るとそう信じることができる。


この映画は主人公と両親との交流ともうひとつ
主人公の恋愛という2本の柱で描かれているのだが
名取裕子演じる彼女との交わりは映画の中で効果を上げてるとは思えない。
ラストのシーンなどかなり失敗している。
これは名取裕子が悪いのではもちろんなく
「ああ、監督またやっちゃったよ」という感じ。

でもそれを差し引いてもいい映画だなと思う。
マイ大林映画ベスト1だよ。
いろいろマイナス点もあるにせよ
鶴ちゃんと秋吉久美子、そして主人公役の風間杜夫の演技が
それを打ち消すほどの素晴らしさを見せている。
音楽に使われているプッチーニのアリアも効果的。
機会があったら是非観てみてちょんまげ侍!


あたくしは、すき焼きが食べたくなりました。
誰か『今半』連れてって・・・。