安波節

hacchaki2007-02-27



  安波ぬまはんたや 肝すがれ所
   宇久ぬ松下や 寝なし所

  
  安波ぬ祝女殿内 黄金灯籠下ぎてぃ
   うりが明がりば 弥勒世果報


  <読み方>
  あふぁぬまはんたや ちむすがれどぅくる
    うくぬまちしちゃや になしどぅくる

 
  あふぁぬぬんどぅんち くがにどぅるさぎてぃ
    うりがあかがりば みるくゆがふ


今回の「歌碑巡りツアー」では『安波節』のふるさと、
国頭村安波まで行きました。
安波集落は沖縄最北端の少し手前。
太平洋に面したとても静かな集落です。


沖縄民謡教室の多くでこの曲『安波節』は最初に習う曲ですね。
一見工工四も節回しもシンプルで「簡単そう」なこの曲ですが
いざ唄い始めるととても奥が深いというか難しい。
得てしてシンプルなものほど奥が深いんです。
まず、『安里屋ゆんた』が唄いたい、という感覚で
教室に入った人にとっては“うちなーぐち(沖縄方言)”で唄う
初めての曲なわけで言葉の発音でつまずいてしまう。
そして、その“うちなーぐち”でゆったりと唄われるこの唄、
なんだかとても崇高なことを唄っているような感じがして
「取っつきにくいかも」と臆してしまう。
さらに、いざ唄い始めるとシンプルすぎてつかみ所がない。
こういう唄ってなかなかポイントを押さえにくいのです。


この唄が表現している世界は崇高というのとは少し違う。
「安波」とは沖縄県の北部にある集落の名前(国頭村安波)。
「まはんた」は小高い山(といっても里山程度の高さ)の
中腹にある広場で、そこは昔“毛遊び”が行われた所。
昔の人たちの労働の後集まって酒をかわして唄い踊った
今でいう合コン的機能や社交的機能を果たした。
それが“毛遊び”(毛=野)。
※「はんた=崖」「まはんた=崖に面した広場」
Kさんの解説によると「すかれ」は「好かれ」で
「肝すがれ所」はすなわち「心を好かれ合う所」というような意味。
つまりおおざっぱに訳すと


  安波のまはんたという広場は 男と女が心惹かれ合う場所


そして後半の歌詞を一気に訳すと


  宇久の松下(まはんたからすこし奥まった所)は 男と女が寝る所


おお、なんと直球。
『安波節』は非常にプリミティヴな男女の営みを
おおらかに描いているのです。
なんてすがすがしいんだろう。
悠久のいにしえから男と女は心を心を寄せ合い
愛を交わしながら子孫を産み育んで来た。
『安波節』で唄われていることはそういうことなのではないか。
堅苦しいことは抜きにして、愛だろ、愛。
この唄はそう現代の我々に語りかけているような気がします。


  <2番/意訳>
  安波の女官のお屋敷に 黄金色の灯籠が下がって
  そこに灯りがともると 平和で豊かな素晴らしい世の中になります

この里山の中腹にまはんたがあります。
(写真中央の少し左上の白っぽい屋根のあるところ)
左手の一段下がった所にある屋根が「祝女殿内」。

ここがまはんた。ここで夜な夜な毛遊び。
ここで心を通わせた男女は奥の薮の中に消えて行く。
三線弾きは最後のひとりが消えるまで
演奏を止めることが出来なかったというから損な役回り(笑)。


歌碑巡りツアーに参加していた方が
「20年前にツーリングで来たときはどの家屋も茅葺き屋根
古い沖縄の風景がそのまま残っていて
ホントに風光明媚ないい所だったけど
やっぱり変わってしまったなあ。」
と語ってくれました。
いまでもじゅうぶんに風光明媚だと思いますが
いわれてみれば確かに住宅はすべてアスファルトに建て替えられています。
やはり時代とともに風景は変わって行くわけですね。
当時は唄にうたわれた情景そのままだったのでしょう。
そんな安波を訪ねてみたかったです。