『お富さん』と沖縄?

hacchaki2011-12-09

「死んだはっずだ〜よ おっとみっさん〜♪」


と春日八郎が唄った『お富さん』。
昔からこのノーテンキな曲調が好きで
最近ライブでもちょこっと唄ったりするのですが。
この唄の出自について知りたいと思っていたら
ちょうど元となった歌舞伎『与話情け浮世横櫛』をベースにした
映画『切られ与三郎』を時代劇チャンネルでやっていたので鑑賞。
こ、こんな暗い話やったんや・・・。

<ざっくりとしたあらすじ>
お坊ちゃま育ちのイケメン与三郎が
ヤクザの女(お富)に手を出してボッコボコにされて
体中切りつけられて簀巻きにされて川に棄てられる。
(ここから「切られ与三郎」と呼ばれる)
旅芸人の一座に助けられるが
そこでもまた女に裏切られ
人殺しの汚名を着せられ指名手配され
人目を憚りながら江戸に戻ってくると
死んだと思っていたお富は生きていて再び裏切られる。
ヤクザに追われ役人も追われ
唯一心底信頼し合っていた妹
(映画では妹が与三郎に惚れている設定)
にも死なれて最後は入水自殺のBAD END。

全然あの陽気な春日八郎の唄と一致しない・・・。

「死んだはっずだっよおっとみっさん〜♪」

な感じは全然ない。
歌舞伎だったらおそらくもっとシリアスなのではないか。
ではなんでこんなノーテンキな唄になったのか。
先日実家に帰ったときたまたま父が図書館から
借りていた本に答えがあった。
長いけれど引用します。

     『昭和の流行歌物語』塩澤実信


 春日八郎は二十九年夏、岡八郎のピンチヒッターとして
 『お富さん』という変わった題名の歌を歌わされた。


    粋な黒塀 見越しの松に
    仇な姿の 洗い髪


 「死んだ〜」と縁起でもない歌詞が続くが歌舞伎に
 暗い春日八郎は一瞬歌詞の意味が飲み込めなかった。
 作曲の渡久地政信も同じことで、山崎正の“歌舞伎歌謡”
 と銘打った『お富さん』が渡された時、「お富さんって
 誰のことだい?」と尋ねたほどだった。
 渡久地はそれまで一度も歌舞伎を見たことがなかったから
 しかめつらしい伝統にとらわれることなく
 出身地・沖縄民謡からヒントを得てお座敷ソングのつもりで
 作曲したのだった。

言われてみれば『お富さん』は
どことなく『安里屋ユンタ』によく似ている。 
『お富さん』と沖縄にそういうつながりがあったとは!


ちなみに渡久地政信さんは1916年(大正5年)生まれの作曲家。
恩納村に生まれ日大芸術学部を卒業後
一度は歌手デビューを果たすがその後は作曲家として活躍。
1998年肺がんのため81歳で亡くなられたそうです。
ヒット曲に『上海帰りのリル』『島のブルース』
『夜霧に消えたチャコ』などがあります。
ライブで渡久地政信特集なんてやってみるのもいいかも。


しかし知るということは面白いことだ!


ちなみに与三郎を演じたのは当時の
イケメン俳優ナンバーワン市川雷蔵
与三郎の育ちがよくってお人よしな感じが
とてもよく出ています。そして美しい!
与三郎を慕い続ける妹に富士真奈美
今の姿からは想像がつかないほど可愛いです(笑)。
意外なのは中村玉緒が悪女役出ていること。
顔の骨格で彼女とすぐわかります(笑)。
1960年の作品ですが非常にモダンで
古臭さは感じられません。
セットも凝っていてきょうびのハンパな時代劇より
よっぽど面白いです。オススメ!