『グラン・トリノ』感想文(DVDで鑑賞・ネタバレあり)

クリント・イーストウッド
俳優業としては最後の作品と言うにふさわしく
「おとこのしにざま」
を描いた作品になっている。
ちなみに監督業はまだまだ続けるとのこと。
81歳でまだまだ創作意欲盛んというのは凄い。
クリエイターかくあるべし!


妻に死なれ息子家族たちからも疎ましがられる頑固爺さんと
隣家に越してきたうっとうしい東洋人家族との心の交流。
この頑固爺さんが彼の大出世作『ダーティーハリー』の主人公
ハリー・キャラハンの老後みたいでとてもよい。
その家の息子タオやその姉スーとのやり取りがとてもいい。
彼らは年齢を超越して「ともだち」と呼べる関係になっていく。
じんわりと温かいものが心の中に宿る。
老人は彼らとの交流、そしてある事件を通じて
「死に場所」を見出す。
それは彼が人生において背負ってきた「業」への
「赦し」を得るための場所だ。
タオは老人の死に様を見て「師」と出会う。
「師」はタオに自分が愛したクルマを託す。
それは彼の一生の宝物となるであろう。


けっして大作ではないが
クリント・イーストウッドの映画に対する
真摯な情熱が伺える良作であった。


ただ、気になる点はいくつかある。
スーがレイプされた時点でなぜ警察は動かないのか。
老人が殺されたあとなぜ犯人たちは逃げなかったのか。
こういうディテールはちゃんと詰めて欲しいかった。
また彼が死は、彼自身にとってはある種
理想の締めくくりだったかも知れないが
事件の根本的な解決にはなっていないということ。
犯人たちはいずれ出て来るだろうし
スーやタオにとって友人であり師である老人が死に
犯人たちがのうのうと生き続けていることは
耐え難い現実ではないか?


このあたりがスッキリすると
もっと「名作」になっていたのでは。
そこがとても残念。
しかし老人の交流として成長していく
少年の物語として見れば
エンディングはなかなか味わい深い。
あのエンディングは好きだな。


タイトルは何かと思ったらクルマの名前だったのね。
アメ車に疎いワタクシは知りませんでした。
ラストでそのクルマが小道具としてグッと効いてます。
オトコにとってクルマとはそういうものなのです。

グラン・トリノ [DVD]

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